知っていますか?オリンピック・パラリンピックのシンボルに込められた意味
コラム 2021.09.21
前々回・前回の2回にわたって、歴代の「オリンピック・エンブレム」をまとめてご紹介しました。
どのエンブレムも、開催都市・開催国らしさを表現するためにデザインを工夫していたり、様々なメッセージを色や形で表現する等、ロゴデザインの参考になりそうなものばかりでしたね。
さて今回は、オリンピック・パラリンピックを象徴するロゴ「五輪マーク」と「パラマーク」についてご紹介します。
■目次
「五輪マーク」は何を意味している?
まずは「五輪マーク」から解説していきましょう。
正式名称は「オリンピック・シンボル」
「五輪マーク」は通称で、正式には「オリンピック・シンボル」と言います。
尚、「オリンピック・シンボル」は、「オリンピック憲章」の中で下記のように決められています。
オリンピック・シンボルは、単色または5色の同じ大きさの結び合う5つの輪 (オリンピック・リング) からなり、単独で使用されるものを指す。
5色のカラー版での使用では、左から順に青、黄、黒、緑、赤とする。
輪は以下に示すグラフィックス※のように結合し、左から順に上段に青、黒、赤の輪を、下段には黄、緑の輪を配置する。
※「オリンピック憲章」では、文章の下に「オリンピック・シンボル」が掲載されています。
引用元 | オリンピック憲章/第1章の8より
カラーの「五輪マーク」の場合は、“どの位置の輪を何色にするか”という事まできっちりと決められていたのですね。
「5つの輪」の意味とは?
「オリンピック憲章」の中では、「5つの輪」についても記述があります。
オリンピック・シンボルはオリンピック・ムーブメント※の活動を表すとともに、5つの大陸の団結、さらにオリンピック競技大会に全世界の選手が集うことを表現している。
※「スポーツを通してこころとからだを健全にし、さらには文化・国籍といったさまざまな違いを超え、友情や連帯感、フェアプレーの精神をもって互いを理解し合うことで、平和でよりよい世界の実現に貢献する」という、オリンピズム(オリンピックの根本的な考え方)を世界中の人々に広げること。
引用元 | オリンピック憲章/第1章の8より
「五輪マーク」は、よく見てみると少し複雑に絡み合っていますが、それは“5つの大陸の団結”という意味が込められていたからなのです。
「五輪マーク」をデザインしたのは“近代オリンピックの父”
「五輪マーク」を考案したのは、フランスの教育者であり、「近代オリンピック」の提唱者、ピエール・ド・クーベルタン男爵(クーベルタン男爵ピエール・ド・フレディ)です。
「五輪マーク」は1914年6月の「IOC創設20周年記念式典」で披露され、1920年アントワープ大会以降、開会式で使わるようになりました。
ところでクーベルタン男爵は、「五輪マーク」の5色について下記の言葉を書き残しているそうです。
『青、黄、黒、緑、赤の色は、地色の白を加えると、世界の国旗のほとんどを描くことができるという理由で選んだ』
「五輪マーク」の5色は、一見すると『ベーシックな色の中から偏りなく選択した色かな?』と感じる色ですが、「オリンピック憲章」に記述されている“オリンピック競技大会に全世界の選手が集うことを表現している。”という意味が込められた5色だったのです。
オリンピックは、世界各国のアスリートが参加する“スポーツの祭典”です。「五輪マーク」のは、その祭典を象徴する為の色と形をしていたのです。
「パラマーク」は何を意味している?
それでは続いて、「パラマーク」について解説しましょう。
正式名称は「パラリンピックシンボル」
「パラマーク(または、パラリンピックマーク)」は通称で、正式には「パラリンピックシンボル」と言います。
さて、「パラリンピック」という言葉は現在、“世界最高峰の障害者スポーツの国際競技大会”の大会名として使われていますが、実はその言葉の由来は、はっきりとは分かっていないのです。
“Paralympic”という言葉を使った事が確認できる最も古いものは、1953年イギリスの新聞の見出しです。
第2次世界大戦で脊髄を損傷した傷痍軍人たちのリハビリテーションのための競技会で、イギリスの「ストーク・マンデビル病院」で行われた「ストーク・マンデビル競技大会」を指す“愛称”として掲載されていました。
“Paralympic”の愛称の由来は、「パラプレジア(Paraplegia、対麻痺:脊髄損傷等による下半身麻痺)」と「オリンピック(Olympic)」を組み合わせた造語だったようですが、定かではありません。
「ストーク・マンデビル競技大会」は当初、“車椅子使用の入院患者”の為の競技会でしたが、その後、国際的な競技大会へと発展。そして“車椅子使用者”に限らず、様々な身体障害を持つアスリートが参加するようになりました。
IOC(国際オリンピック委員会)が、「パラリンピック」を大会名として用いる事を正式に認めたのは1985年。
「ストーク・マンデビル競技大会」は本来の“車椅子アスリート”の為の競技大会という位置付けとし、「パラリンピック」は“あらゆる障害を持つアスリート”の為の競技大会として、差別化する事となったのです。
その際に、「パラリンピック」の言葉に込められた意味も見直される事になりました。
先述した、「パラプレジア+オリンピック=パラリンピック」では“半身不随者”に限ってしまい、それ以外の身体障害を持つアスリートが参加する大会の意味にそぐわないからです。
「パラリンピック」は、新たに「パラ(ギリシャ語Para、英語のパラレル(平行)の語源」+「オリンピック(Olympic Games)」の造語とし、“もう一つのオリンピック”として再解釈する事となったのです。
「パラマーク」の意味とは?
今と昔ではデザインが違っていた!?
大会名に「パラリンピック」を使用する事が決定後、初めての開催された大会は1988年ソウル大会でした。
この時に掲げられた「パラリンピック」の旗には、次のようなデザインが描かれていました。
「五輪マーク」と同じ5色・色の配置が同じですが、“輪”ではなく、“勾玉”のようなシルエットが並んでいますね。
この“勾玉”は「太極」と言って、古代中国の宇宙観、万物を構成する陰陽二つの気に分かれる以前の根元の気を表しています。
「五輪マーク」とは違う意味を持つ「パラマーク」
「パラマーク」が初お披露目されたソウル大会後、1994年リレハンメルパラリンピックで「太極」の数が3つに変更されます。
「3つの太極」は、人間の最も大切な3つの構成要素である「心(スピリット)・肉体(ボディ)・魂(マインド)」を表していて、配色もそれぞれを意味する赤・青・緑の3色へと変更になりました。
また、この3色が選ばれたのは“世界の国旗で最も多く使用されている色”という理由もあります。「五輪マーク」と同じ様な理由も含まれていたのですね。
パラリンピアを表現するシルエットに変更
2004年には、「太極」のシルエットから現在使用されている「曲線」のシルエットへと変更されました。
躍動感のあるこの新しいシンボルは、「スリーアギトス」と呼ばれています。
「アギト」とは、ラテン語で「私は動く」という意味。困難なことがあってもあきらめずに、限界に挑戦し続けるパラリンピアンを表現しているそうです。
シンプルなシルエットですが、曲線の強弱(両端が細く、中央が太い)によって勢いとスピード感を感じます。また、角度の違う3本によって“スポーツによる様々な動き”が表現されているのを感じますね。
この「パラマーク」は「東京2020パラリンピック」でも使用されましたが、実はここからさらにデザインが変更されます。
2019年、「IPC(国際パラリンピック委員会)創立30周年」に際し、デザインを若干変更した4代目の「パラマーク」が発表されました。
これまでのものより色が明るくなり、シルエットが洗練された印象を受けますね。以前のものは3つの曲線の間隔がやや詰まり気味だったのですが、程よい間隔が空いてバランスが良くなりました。
こちらの「パラマーク」は、2022年北京大会(冬季オリンピック)以降のエンブレムに用いられるそうで、2024年パリ大会のエンブレムにも、この4代目「パラマーク」が採用されています。
「パラリンピック」と「パラマーク」は、時代に合わせて言葉の持つ意味や、形や色を変えて現在に至っていたのですね。
前回の記事でもご紹介しましたが、2024年パリ大会のエンブレムは、「五輪マーク」・「パラマーク」の違いはあれど“2つの大会に違いはない”という意味を込めて「ロゴ(図案+文字)」※のデザインは全く同じになっています。
※エンブレムを構成する要素については、記事【オリンピックの“顔”、歴代エンブレムのデザインをまとめてお見せします!-前編-】で解説していますので、ご参照ください。
もしかすると今後、「五輪マーク」・「パラマーク」の違いも無くなっていくのかもしれませんね。